愛しの残念眼鏡王子
こんな私のことなんて、専務はきっと嫌いになっちゃったよね。

あぁ、でも専務は優しいから。

嫌いにはなられていないかもしれないけど、この先私のことを好きになってくれることはないかも。


そんなの嫌だけど、それよりもこの先もずっと自分に自信を持てない専務を見ている方が、もっと嫌だ。

好きな人には、いつだって笑っていてほしい。

なんて言ったって、専務の笑顔は私の癒しで心の傷を埋めてくれた、特効薬なのだから。



「お先に失礼します」

「お疲れ様、また月曜日ね」

定時で仕事を終え、松田さんに挨拶をして会社を後にした。


いつものように商店街を抜けて自宅へ向かっていく。

けれど帰りがけの松田さんの顔が、頭から離れずにいた。


松田さんに心配かけちゃっているよね。ううん、松田さんだけじゃない。

なにも言わないけれど、会社のみんなに心配かけちゃっている。


たった三十人しかいない職場で、アットホームな環境で。

みんな一番年下の私のことを、気に掛けてくれているのに。
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