愛しの残念眼鏡王子
専務は私にすべて打ち明けてくれたのに、私はなにひとつ自分の本音を専務に話せていない。

なにもかも捨てて、ここへ来た。


ユウと一緒に、穏やかに暮らせていければ充分だった。

もう二度と恋なんてしない、できないと思っていた。……そんな私の心をすくってくれたのは、専務だ。


優しくて笑顔が素敵で。年上なのに愛しいと思えてしまうほど、可愛い一面を持ち合わせていて。

ドジっ子で残念な一面もあるけれど、そこがまた愛しくて……。

挙げたらキリがない。

それくらい私、いつの間にか専務に夢中になっちゃっていたんだ。


だからかな? 専務が自分を低評価しているのを聞いて言ってしまったのは。

好きだから言わずにはいられなかったのかもしれない。

でも私、肝心なこと言えていない。

それよりも、もっと大切なこと――。


「そうだよ、好きって伝えないと。……そうだよね、ユウ」


思わずいつもの癖で、ユウに声を掛けてしまった時、さっきまで握りしめていたリードの存在がないことに気づいた。
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