愛しの残念眼鏡王子
「嘘、私ってばいつの間に離して……?」


ううん、今はそれどころじゃない。ユウは?

ブランコから立ち上がり、周囲を見回すと辺りは真っ暗。

シンと静まり返っていて、ユウの鳴き声が聞こえない。


「ユウ……?」

慌てて公園内を探すけれど、一向にユウの姿が見当たらない。

「嘘でしょ、ユウ……っ」


なにやっているの、私。ユウの散歩中だったのに。


普段は仕事で一緒にいてあげることができなくて、唯一朝と夕方の散歩の時間はユウと、思いっきり遊ぶことができる時間だったのに。

最近の私は専務のことを考えてばかりだった。


ユウと一緒にいても心は上の空で……。

さっきだってユウ、早く行こうってリードを引っ張っていたのに、私が無理やりこの公園に立ち寄って我慢させて。


ユウは遊びたがっていたのに、何やっているのよ。

「どこ行っちゃったんだろう……っ」

東京とは違い、街灯もまばらで真っ暗な場所が多い。
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