愛しの残念眼鏡王子
分かっている、専務は私のことを心配してくれているんだって。

だからこそ、怒っているんだって。

だけどユウがいなくなって、専務が突然現れて、怒られて。

感情がぐちゃぐちゃになっていく。


そしていつの間にか沢山の感情が溢れて止まらず、涙が零れてしまった。

そんな私を見た専務はたちまちギョッとし、慌てて涙を拭くためのハンカチを探し出した。


「ごっ、ごめん! 泣かすつもりじゃ……っ! あれ、ハンカチっ……」

よほどびっくりしたのか、専務は何度も右ポケットを確認している。


泣いている場合じゃないのに、なぜか涙はなかなか止まってくれない。

ゴシゴシと手で涙を拭いながら、専務に伝えていった。


「違うんです、専務は悪くありません! ユウが……飼っている犬が散歩中にいなくなっちゃって……」

「――え」


専務は動きを止め、私を見据えた。


「散歩中に考え事しちゃっていて。その間にユウがいなくなっちゃったんです。家にも戻ってきていないし。さっきから探しているんですけど見つからなくて……それで私……っ」


ユウが心配でせっかく拭ったのに、涙がまた零れ出す。
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