3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
第5話「家族計画」

「飲んでねぇ~」


 啓子のマンションに着いた私たちは啓子の部屋に通され、家族が留守だからと啓子がお茶を入れてくれた。

 ポットごと持ってきてくれたけど、フタの端からティーバックのタグが見えている。
 紅茶かなって思ったけど、タグにはハイビスカスティーと書いてあった。

 かわいい花柄のカップに注がれたお茶は、紅茶よりも赤い色をしていた。


「ノンカフェインだから、安心して飲んでねー」


 白いロウテーブルの前に座った私たちの前に、そのハイビスカスティーが置かれる。


「ビタミンたっぷりで美容にもいいんだよ~、でもちょっと酸っぱいから、ハチミツ入れてねー」

「う、うん。ありがとう……」


 飲んだことのないお茶に、ちょっと緊張する。
 言われるがままハチミツを足して、おそるおそる口にする。


「あ、おいしい」


 ちょっと柑橘っぽい匂いがして、甘酸っぱいの好きだからクセになりそう。


「千奈美は~?」

「うん……」


 緊張したようにテーブルの前で小さくなっていた千奈美もカップを手にして飲む。
 千奈美には酸っぱすぎたみたいでハチミツを出していたけど、二口三口と飲み進めてる。
 飲めないようではないようで、啓子はホッとしたようだった。


「濃いめに入れて、ジュースで割っても美味しいんだよ〜」


 クーラーの効いた部屋で温かいお茶を飲むというのは贅沢な感じ。
 妊婦さんは体を冷やしちゃいけないっていうから、ちょうどいいのかも。

 お茶を飲みながら、久々に入った啓子の部屋を見渡す。

 ベッドサイドに置かれたあのテディベアはおニューかな。
 相変わらず、啓子の部屋はぬいぐるみが多い。
 大小さまざま、モチーフもクマやイヌやウサギとさまざま。
 とってもかわいらしいお部屋。

 ぐるりと部屋を見渡して、視線を戻す。
 隣で千奈美が心細そうに、背中を丸めていた。


「千奈美、私は千奈美の味方だからね」


 千奈美の顔を覗き込んでそっと語りかけると、千奈美はコックリと頷いた。


「もちろん私も、そうだよー」


 向かいに座った啓子も、身を屈めて千奈美にそう言う。
 少しだけ、千奈美の頬に笑みが浮かんだ気がした。


「でね。千奈美は……どうしたいの?」


 ゆっくりと、いつもよりはっきりした口調で啓子が問いかける。
 千奈美の唇が震えた。


「…………」


 けど、それだけだった。

 千奈美はを噛んで俯いてしまう。
 笑みを浮かべた気がした頬も強張って、じっと体を硬直させる。
 震える背中が痛々しい。


「っ……そんなにすぐ、決められないよね!」


 思わずそう叫んでいた。
 千奈美を追い詰めてしまうのが怖かった。


「それもそうだね! 大切なことだから……ちゃんと考えて」


 私が出した助け舟に、意外なことに啓子も乗っかった。
 それから一拍置いて、啓子は言い切る。


「でも……オ、堕ろすなら、早い方がいいからね!」
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