3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「お待た~」
俊輔くんを迎えに行った啓子が、俊輔くんを連れて戻ってくる。
「こんにちは」
扉を開いた啓子の頭越しに、俊輔くんが顔を出す。
人懐っこい笑みを浮かべる俊輔くんは私たちと同じ年なのに、すごく落ち着いてて大人っぽく見えた。
「こんにちは」
私も挨拶を返して、千奈美も軽く頭を下げる。
「俊輔はそこに座ってて~、お茶入れなおしてくるー」
啓子は自分が座っていた場所の隣にクッションを置くと、ポットを持ってまた出て行く。
「久しぶりだね」
俊輔くんは帽子を脱いで、啓子の置いていったクッションの上に座る。
額に浮かんだ汗を拭いて、私たちに微笑みかける。
「おれ、汗臭くないかな?」
「大丈夫です」
向かい合った俊輔くんからするのは、清潔な柔軟剤の香り。
私は胸を張ってそう言いきる。
「それはよかった。……ところで、千奈美ちゃん」
俊輔くんの目が答えた私から、私の隣で俯いている千奈美に移った。
「啓ちゃんから話は聞いたよ。ごめんね、勝手に」
勝手に事情を聞いたことを詫びる俊輔くんに、千奈美は首を振って応える。
「とりあえず、ちゃんとお医者さんに診てもらおうね。なにか病気があったりしたら大変だし、千奈美ちゃんになにかあったら啓ちゃんも朋絵ちゃん辛いよ。もちろん、おれだって」
語りかける声がとても優しい。
子宮外妊娠とか聞くし、そういうのだったら大変。
私も心配だと、こくこく頷く。
「抵抗はあるかもしれないけど、頑張ろう。一人で行きにくいなら、啓ちゃんや朋絵ちゃんに付き添ってもらってもいいんだしさ」
「うん……」
私たちほど親しい間柄ではないせいか、それとも俊輔くんの人柄がなせる技か。
千奈美は思ったよりも落ち着いた様子で頷いている。
「どっかさー、かかりつけの産婦人科とかある~?」
そう言いながら啓子が部屋に戻ってくる。
さっき持って行ったポットと、俊輔くん用のカップを持っていた。
俊輔くんまで、私たちと同じ花柄のカップだった。
「いや、でも啓ちゃん。かかりつけより、少し遠い産婦人科の方がよくないかな? 知り合いに合うのも気まずいだろうし」
啓子の登場に千奈美がまた体を固くした。
それに気づいたのは、隣に座っている私だけみたい。
啓子は俊輔くんの隣に座って、ハイビスカスティーを入れている。
「はい、どうぞ。でもさ~、変に遠くに行くのも怪しくない? 私のときだって、保険証からバレちゃったしー」
「でも、あれは仕方がなかったよ。どうせあのまま隠し通せるわけじゃなかったんだし……」
「まあ、妊娠してなかったら、生理痛を診てもらっただけー、でも恥ずかしいからーって、どこの病院でも言い訳出来たかな」
話しながら啓子がカップを手渡し、俊輔くんも話しながらそれを口にする。
「うっ、すっぱ。なにコレ。啓ちゃん、また変なの飲んでるね……なにコレ?」
「ハイビスカスティーだよ~」
ハチミツを入れないで飲んだ俊輔くんは、顔をしかめている。
私は最初からハチミツ入れてたから美味しく飲めたけど、ハチミツ入れてあの酸味なら、ハチミツなしはだいぶ酸っぱいと思う。