3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「……なん、でぇ?」
啓子の言葉が震えていた。
なんで、千奈美はそんなことを言うの?
私も俊輔くんも驚いて、もうわけがわからない。
「どうしても! わたし、もう帰る!」
千奈美は鞄をつかんで立ち上がり、私の横をすり抜ける。
けど、すぐに啓子が手を伸ばして千奈美のスカートをつかんだ。
「なんで? なんでなの!? なんで、アタシじゃダメなの……!?」
悲鳴のような啓子の声に、千奈美も足を止める。
「アタシが……アタシが……」
啓子の目から、大粒の涙がこぼれ出す。
「アタシが…………中絶してるから……?」
すがりつく手は、小刻みに震えていた。
血を絞り出すような声の啓子に、私も俊輔くんも千奈美も言葉を失った。
――失ったと思った。
「そうだよ」
言葉を失ったはずの千奈美が口を開く。
啓子を見る千奈美の目はとても冷めていて、なんの感情も見られなかった。
なんの感情も込めずに、ただ残酷に啓子の言葉を肯定する。
「千奈美!」
自分でも驚くほど大きな声が出ていた。
そんなこと、言っていいはずがない。
自分の過去にこんなに傷ついている啓子に、どうしてそんなことが言えるのかわからなかった。
自分を人殺しだと思って、罪を背負っている。
その背中を踏みにじるようなこと……
どうして、千奈美がこんなことを言うの?
啓子にだけは自分から妊娠を打ち明けたのに、きっとそれは啓子の過去があるからこその信頼のはずだったのに……私たちは、親友じゃなかったの?
「千奈っ……嫌、なんで……どおしてぇ?」
啓子は止めどなく流れる涙をぬぐおうともせずに、千奈美の制服を握りしめてすがりつく。
「放して!」
「いやぁ!」
二人の声は、甲高い悲鳴だった。
「嫌だ、嫌だよぉ! 千奈美ぃ……なんで? なんでよぉ!」
さっきの怒りの表情とはまた違う、私が見たことのない啓子の顔。
どうしたらいいのかわからない。
この場面で、私はどうしたらいいの?
「なんで、なんで妊娠しなんかしちゃったの? なんで、アタシと同じになっちゃうのよ! 嫌だよ。嫌だよぉ!!」
啓子はいつもオシャレに気を使って、学校でもバレないように化粧までしていた。
暇さえあれば鏡をのぞいて、いつも身だしなみには気を使っていたのに。
そんな啓子が顔をくしゃくしゃにして、泣き叫んでいる。
「啓ちゃん……」
どうしたらいいのか分からず竦んでしまっている私に代わって、俊輔くんが啓子に優しく寄り添う。
震える啓子の肩を優しく抱いて、きつく握られた手をそっと解こうとする。
俊輔くんの顔は蒼ざめていて、きっと千奈美の言葉は俊輔くんの胸にも深く突き刺さった。