3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
翌週、私は禄英高校の前に立っていた。
禄英高校――千奈美の元カレで、赤ちゃんのパパである夏樹くんが通っている高校。
そこに私は立っていた。
学校をサボって補導されないように気をつけながら時間を潰して、下校時刻に間に合うようにここへやって来た。
こんなことがバレたら、千奈美は余計なことをしない出って怒るかもしれない。
きっと怒るだろう。
それでも、私は黙っていられなかった。
「おまっ、千奈美の……!」
私が夏樹くんを見つけるより先に、夏樹くんの方が私を見つけて声を上げた。
振り返った先には、驚いた顔の夏樹くん。
大勢の友達に囲まれて、私を指差している。
連れているのは男友達がほとんどだったけれど、夏樹くんの隣には女の子が立っていた。
それがとても腹立たしい。
「夏樹くん、なんで私がここにいるのかわかるよね?」
腕を組んで夏樹くんの目前に立ち、私は背の高い彼を見上げる。
バツが悪そうに夏樹くんは私の腕を引いた。
「どういうつもりだよ、学校なんかに押しかけやがって」
夏樹くんは友達にちょっと待つよう伝えて、私の腕を引っつかんで校舎の陰に連れて行かれる。
「なんだなんだよ、ナツキー」
夏樹くんの友達たちが何事かとざわついていて、その中の一人の声が私の耳に届いた。
「前のカノジョはらまして捨てたくせに、もう新しい女かよ~」
ゲタゲタゲラゲラと品のない笑い声が耳に障る。
「おまえ、千奈美に何言われたんだよ」
校舎の陰に入って人目から隔絶されると、夏樹くんはそう切り出した。
「別に、なにも」
「なにもってことはないだろ。千奈美の奴、勝手にベラベラ喋りやがって」
悪態をつく夏樹くんの言葉が、頭に上った血のせいでうまく聞こえない。
勝手にベラベラ喋りやがってって、それはこっちのセリフだ。
「言いたいことがあるならさっさと言えよな。金の請求? やっぱ、堕おろしたんだ」
あざけるような笑みを浮かべるこの男はいったいなんなんだろう。
これが本当に、千奈美の恋人だった夏樹くん?
「えげつねぇなぁ、女って。で、領収書は? 人に金せびるんだったら、それっくらいジョーシキだろ」
目の前にいるこの男が信じられない。
「全額払ってやんだから、感謝しろよな」
言い返してやりたいのに、怒りで震えて声が出ない。
「いいよなー、女は。子供殺してんのに被害者面できて、金までもらえるんだから。こっちが迷惑料もらいたいぐらいだっての」
千奈美がずっと好きだった人。
電車の中で毎日見つめていた人。
一年見つめつづけてやっと告白する勇気を手に入れた時、一人じゃ不安だからって私と啓子はそばで見守っていた。
その時は、千奈美の告白に少し照れたようで、まんざらでもなさそうで、嬉しそうで……
まさか、こんな人だったなんて!
知ってたら、千奈美に近づけさせなかったのに!
「んな睨むなって、わぁったよ。いくら払えばいいんだ? てかさ、千奈美、本当に妊娠してんの?」
震える手を、強く強く握り締める。
「告るのにダチ連れてきたりさ、変だと思ったんだよ。生でヤらせるし」
千奈美の親友として、このまま言いたい放題にさせるわけにはいかなかった。
でも、なんて言い返したらいいのかわからない。
心のなかがぐちゃぐちゃして、ただ怒りだけが煮えたぎって、心底コイツが憎いと思った。
言葉にならない。
だからこそ、私は夏樹くんに対して一歩踏み込んだ。
「最初っから、金目当てだったんじゃねーの?」
拳を振りかぶり、私は生まれてはじめて人をグーで殴った。
禄英高校――千奈美の元カレで、赤ちゃんのパパである夏樹くんが通っている高校。
そこに私は立っていた。
学校をサボって補導されないように気をつけながら時間を潰して、下校時刻に間に合うようにここへやって来た。
こんなことがバレたら、千奈美は余計なことをしない出って怒るかもしれない。
きっと怒るだろう。
それでも、私は黙っていられなかった。
「おまっ、千奈美の……!」
私が夏樹くんを見つけるより先に、夏樹くんの方が私を見つけて声を上げた。
振り返った先には、驚いた顔の夏樹くん。
大勢の友達に囲まれて、私を指差している。
連れているのは男友達がほとんどだったけれど、夏樹くんの隣には女の子が立っていた。
それがとても腹立たしい。
「夏樹くん、なんで私がここにいるのかわかるよね?」
腕を組んで夏樹くんの目前に立ち、私は背の高い彼を見上げる。
バツが悪そうに夏樹くんは私の腕を引いた。
「どういうつもりだよ、学校なんかに押しかけやがって」
夏樹くんは友達にちょっと待つよう伝えて、私の腕を引っつかんで校舎の陰に連れて行かれる。
「なんだなんだよ、ナツキー」
夏樹くんの友達たちが何事かとざわついていて、その中の一人の声が私の耳に届いた。
「前のカノジョはらまして捨てたくせに、もう新しい女かよ~」
ゲタゲタゲラゲラと品のない笑い声が耳に障る。
「おまえ、千奈美に何言われたんだよ」
校舎の陰に入って人目から隔絶されると、夏樹くんはそう切り出した。
「別に、なにも」
「なにもってことはないだろ。千奈美の奴、勝手にベラベラ喋りやがって」
悪態をつく夏樹くんの言葉が、頭に上った血のせいでうまく聞こえない。
勝手にベラベラ喋りやがってって、それはこっちのセリフだ。
「言いたいことがあるならさっさと言えよな。金の請求? やっぱ、堕おろしたんだ」
あざけるような笑みを浮かべるこの男はいったいなんなんだろう。
これが本当に、千奈美の恋人だった夏樹くん?
「えげつねぇなぁ、女って。で、領収書は? 人に金せびるんだったら、それっくらいジョーシキだろ」
目の前にいるこの男が信じられない。
「全額払ってやんだから、感謝しろよな」
言い返してやりたいのに、怒りで震えて声が出ない。
「いいよなー、女は。子供殺してんのに被害者面できて、金までもらえるんだから。こっちが迷惑料もらいたいぐらいだっての」
千奈美がずっと好きだった人。
電車の中で毎日見つめていた人。
一年見つめつづけてやっと告白する勇気を手に入れた時、一人じゃ不安だからって私と啓子はそばで見守っていた。
その時は、千奈美の告白に少し照れたようで、まんざらでもなさそうで、嬉しそうで……
まさか、こんな人だったなんて!
知ってたら、千奈美に近づけさせなかったのに!
「んな睨むなって、わぁったよ。いくら払えばいいんだ? てかさ、千奈美、本当に妊娠してんの?」
震える手を、強く強く握り締める。
「告るのにダチ連れてきたりさ、変だと思ったんだよ。生でヤらせるし」
千奈美の親友として、このまま言いたい放題にさせるわけにはいかなかった。
でも、なんて言い返したらいいのかわからない。
心のなかがぐちゃぐちゃして、ただ怒りだけが煮えたぎって、心底コイツが憎いと思った。
言葉にならない。
だからこそ、私は夏樹くんに対して一歩踏み込んだ。
「最初っから、金目当てだったんじゃねーの?」
拳を振りかぶり、私は生まれてはじめて人をグーで殴った。