3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「陣痛とか、今からめっちゃ怖いよ。でもまあ、たぶん大丈夫。なんとかなると思う。赤ちゃんも一緒に頑張ってくれるんだって思えば、きっと頑張れる。初めての共同作業だね」
幸せそうなお姉ちゃんの気持ちが伝染して、お腹の赤ちゃんも幸せな気分になったりするのかな。
「最悪、無痛分娩に切り替えてもらえるらしいし! なんかあって帝王切開になったとしても、母子共に生きてさえいれば!」
私も望まれて、望んで生まれてきたのかな。
「産んだ後は、朋絵もミルクとかオムツ替えとか手伝ってくれるしね〜」
そんな約束した覚えはないけど、私は素直に頷いた。
「うん、私も頑張る!!」
お姉ちゃんは結婚して妻になって、妊娠してお母さんになった。
そして私も、お姉ちゃんの子どもが生まれたら叔母さんになる。
生んでくれなんて頼んでない。
生まれてきたくなんかなかった。
そんな風に思う夜もある。
でも、私は自分で産道を通って生まれてきたくて生まれてきた。
もしも、私が両親に虐待されて死んでしまっていたら本当に生まれてきたことを後悔したのかな。
だったら、生まれてくる前に殺して欲しかったと思ったのかな。
そうでなくても、生まれすぐに施設で暮らすことになったり、今よりずっと貧乏で学校にも行けなかったり、障がいがあって辛い思いをすることが多かったら……
私はなにを思っただろう。
もしかしたらを考えて想像を巡らせてみたけど、答えは出ない。
それでも、最初の気持ちはみんな同じなんだと思う。
私がお母さんの産道を通って生まれてくることを知っていたみたいに、子どもを授かった女の人の体はみんな知ってる。
心とは無関係に命を育むことを望んで体は実行する。
千奈美が悩んで私がこうしてる今も、千奈美の中の赤ちゃんは栄養を送られて育まれてる。
赤ちゃんを産むのは本当に命がけ。
妊娠したら免疫力が下がっていろんな病気にかかりやすくなる。
だけど、赤ちゃんに影響があるから薬とか麻酔とかもめったなことじゃ使えない。
お姉ちゃんも妊娠中毒症で入院が必要かもしれないという話になったりもしていた。
虫歯だって麻酔しないで治療したっていう。
赤ちゃんには幸せに生きる権利があるし、千奈美にも幸せに生きる権利がある。
二人が、どうしたら幸せになれるか。
私に出せる答えじゃないことは分かってる。
とにかく、ちゃんと千奈美をお医者さんに診てもらおう。
啓子と千奈美が絶交しちゃった今、私が頑張らなくちゃ。
「私頑張るよ、お姉ちゃん」