3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
第13話「わたしの…」
「わたしの、赤ちゃん……」
泣き疲れたことで少し落ち着いた千奈美は、私に握り締めていたエコー写真を見せてくれた。
ノイズみたいな古いタイプエコー写真の中に、黒い袋みたいなのが映っている。
その中に白い影が見えた。
まん丸い頭、ぽっこりしたお腹、ちょこんとついた手足。
ちょっとエビみたいにも見えるけど、ちゃんとヒトっぽいシルエットだった。
その小さな人影に、私は……
「かわいい」
思わず、そうつぶやいていた。
「あっ、ご……」
「うん、わたしもそう思った」
反射的にそう言ったことを謝りそうになったけど、千奈美は微笑んでいた。
千奈美も中絶するかもしれない。
どうするかなんてわからないと言いつつ、私はずっとそう思ってきた。
だって、千奈美はまだ高校生なんだもん。
「こんなにわけわかんない写真なのに、不思議だね。すごく、愛おしく思えた」
そうつぶやく千奈美の手は、お腹に当てられていた。
その手の下に、この写真の赤ちゃんがいるんだ。
「先生ね、すごく優しかった」
診察室で、どんなやり取りがあったかは知らない。
でも、診察室から千奈美を呼ぶ声はやわらかくて上品で、とても心地よかった。
「わたしがなんにも言えないでいたら、出産も中絶の話もしてくれて、リスクとか、お金とか、精神的なことまで……」
お腹を撫でながら、千奈美が診察室でのことを話してくれる。
「これからも必要だから、避妊の方法もいろいろ教えてくれたよ。内診とかも怖かったけど、ちゃんと説明してくれて声かけてくれて、力の抜き方とか‥‥思ったより落ち着いて受けれたからか、あんまり痛くなかったよ」
内診という言葉にドキっとする。
さっき読んでたがん検査も内診はあるというか、それで細胞を採取して検査するのがメインだ。
妊娠検査なら膣の中にエコーを入れて赤ちゃんの様子を見たりする。
さっきのエコー写真が、きっとそうだ。
お姉ちゃんがグチってた。
妊娠中期になって経膣エコーからお腹の上からエコーできるようになったのに、結局いろんな検査で内診からは逃れられなかったって。
テレビとかで見るのは、妊婦さんの大きくなったお腹に当てて診るエコーが中心だ。
経膣超音波検査なんて、私はお姉ちゃんに聞くまで知らなかった。
産婦人科は女性に生まれた以上密接に関わる科目なのに、本当に知らないことばっかり。
「わたし、どうしたらいいんだろう……あの優しい先生に、赤ちゃんを殺してくださいってお願いするのかな?」
赤ちゃんをかわいいと言った千奈美。
だから、もしかしたらって思った。
でも、千奈美がまだ高校生であることは変わりはない。