3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 前にインターネットで調べた情報が脳裏によみがえる。

 中絶は産婦人科だったらどこでも受けられるっていうわけじゃないらしい。
 都道府県に指定された、母体保護法指定医師とかいうお医者さんじゃないと手術をしちゃダメだって。

 教科書じゃぼかされていた、初期中絶手術の具体的な方法。
 ぼかしたくなるのが分かるぐらい、本当に惨かった。

 イラストつきで見てしまった、赤ちゃんの最期の姿。
 イラストでも凄いショックなのに、本当の姿はどれだけ酷いんだろう。

 酷い先生もいるみたいで、その姿を見せられたっていう人の話もあった。
 でも、少なくともお医者さんは必ず確認しなきゃいけないんだ。
 自分が患者のために取り出した赤ちゃんを……

 思い出すだけで血の気が引いてしまう赤ちゃんの最期。
 千奈美もその話をお医者さんから説明されたのかもしれない。
 真っ蒼だった。


「赤ちゃん、かわいいって思ったよ。産みたいって、思ったよ。でも、本当に産める? 十ヶ月もお腹に赤ちゃん抱えて、検診に通って」


 お腹に当てられた手が握り締められ、小刻みに震えている。

 中絶は、レイプなど犯罪被害にあって妊娠した場合や経済的な理由で産んでも共倒れするような状況だけでしか認められてない。
 それだけ、中絶は重たい行為だから。

 学校の教科書では、インターネットで見たような中絶の方法はぼかされていたから、中絶しろと言った夏樹の野郎も、本当の姿を知らない。

 見たくない物には蓋をして、知らんぷり。

 女の子が生まれたら、中絶動画を見せて教育しますというコメントを見た。
 もし、男の子が生まれたら?
 赤ちゃんがどうなるかなんて、息子自身が妊娠するわけじゃないから、息子には教えない?

 男の人は知らんぷり?
 男の人が妊娠するわけでも中絶手術を受けるわけでもないから、男の人は知らなくていいの?

 妊娠するのは女性だけでも、男の人がいなきゃ妊娠しないのに……


「高校辞めて働ける? 中卒でなんの仕事に就ける? 大きなお腹抱え働ける? 働きながら子育て出来る? 赤ちゃんのために、頑張れる? 辛くないって、思える?」


 握りしめた千奈美の手が、お腹を離れて防波堤のコンクリートを擦る。
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