3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 夏樹の野郎は、昨日の夜中に突然電話をしてきたらしい。
 今までの言動を殊勝にも謝り、その勢いは電話の向こうで土下座してそうなぐらいだったという。
 その上で、まだ間に合うならきちんと千奈美のご両親とも話がしたいという。
 千奈美と一緒に、お腹の赤ちゃんのことを真剣考えさせて欲しい。
 そう言ってきた。


「本当に……?」


 まさかまさかの急展開に、夏樹の野郎が夏樹くん呼ばわりに戻るかもしれない。
 それでも疑り深い私に、千奈美は少し明るさを取り戻した声で言う。


『これから、夏樹くんに会ってくる。それで、お母さんたちにも話そうと思う』


 千奈美の声は落ち着いてもいて、確かな決意を感じた。


『夏樹くんは、もう親に話したって言ってたから』


 謝ってきた夏樹に、今さらだって千奈美は怒ったんだろうか。
 今更謝っても、夏樹の野郎が仕出かした事実は変わらない。
 防波堤で怪我をした千奈美の手もすぐに治ったりはしない。
 それを千奈美は怒れたんだろうか。
 すぐに許してしまったんだろうか。

 それでも、千奈美の声は晴れ晴れとしていた。

 千奈美に許されて、これからどうするのか。
 夏樹の野郎が夏樹くん呼びに戻るかどうかは、これからにかかっている。


『朋ちゃん、わたし……頑張るね』


 ママとパパ。
 赤ちゃんの両親がそろって、父方と母方のおじいちゃんおばあちゃんもそろう。
 そして、赤ちゃんのことを話し合うことになるんだ。


「うん、応援してる。なにがあっても、私は千奈美の味方だから」

『ありがとう、朋ちゃん』


 例えどんな結論が出ても、私が千奈美の親友であることに変わりはない。


『あのね、夏樹くんがわたしが病院に行ったこと、わたしの友達から聞いたって言ってた。朋ちゃんだよね? 本当に、ありがとう』

「え……?」


 千奈美が病院に行ったこと。
 妊娠が確定したこと。
 きっとそれを知ったから、夏樹は千奈美に連絡したんだ。

 でも、私は夏樹にそんなこと言っていない。

 千奈美の彼氏ってだけで、電話番号やメールアドレスを知ってるわけじゃない。
 だからこそ学校にまで会いに行ったんだし、あの夏休み前に待ち伏せして殴って突き飛ばされた時。
 それが夏樹に会った最後だった。

 夏休みに入れば学校には登校しないし、私は今この瞬間も夏樹と連絡を取る術がない。
 頑張れば、友達の友達とかいろいろ駆使して連絡先をゲット出来るかもしれないけど……
 私には、そこまでして千奈美の妊娠を夏樹に知らせようという気はない。

 私が千奈美の妊娠を知らせたのは……

 本当にありがとうって、千奈美に言われるべきなのは私じゃない。


「違う」


 夏樹の野郎が夏樹くんに戻れるきっかけを与えたのは、千奈美と夏樹くんの仲を取り持ったのは……


「それきっと――啓子だよ」
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