3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「わたしも……啓ちゃんに会えてよかったよ!」
私が叫んでいると、パテーションで仕切られた隣の席からも声がした。
「わたしは、啓ちゃんのこと嫌いになんかなってない! 今も大好きだよ、啓ちゃん!」
隣席の人が立ち上がって、パテーションの上から顔を出す。
伊達めがねと帽子で変装をしているけれど、それは私も啓子もよく知っている顔だった。
「千奈美……」
惚けたように、啓子が名前を呼んだ。
千奈美は私が来る前から隣の席にいて、私と啓子の話をずっと話を聞いていた。
啓子には知らせていなかったけど、ここで待ち合わせをしていたのは私と啓子と千奈美の三人だった。
電話で啓子と仲直りがしたいって言う千奈美のために、私がセッティングした。
私が遅刻したのは、千奈美の到着も待っていたから。
千奈美が啓子の隣りに座ったことをメールで確認して、それから店に入った。
「啓ちゃんは、後悔してるの? 私たちに会ったこと、後悔してるの?」
「そんなこと……」
啓子は困惑したまま、千奈美から目を逸らせないでいる。
目を真ん丸くして驚いて、久しぶりに千奈美を真っ直ぐに見つめていた。
「私は会えてよかった! 啓ちゃんとも、朋ちゃんとも、本当に会えてよかったって思ってる!」
そんなにトクベツななにかがあったってわけじゃない。
でも、こうして腹を割って話せるというだけの関係がとっても尊い。
だから千奈美も、私と啓子には全てを打ち明けられた。
親友と言うこの関係を、手放したくなんかないよ。
「私も、千奈美に会えてよかったよ」
にっこりと、私は千奈美に微笑みかける。
私たちを信頼して全てを打ち明けてくれた千奈美も、私は軽蔑しないし嫌いになったりもしない。
むしろ嬉しかったって気持ちは、間違ってない。
私の言葉に、千奈美は泣き出しそうな目で幸せそうに笑ってくれた。
「啓ちゃん、は……?」
震える千奈美の声に、私の視線も啓子に集中する。
啓子はテーブルに頬杖をついて、どこかふて腐れているようにも見えた。
私と千奈美から、目を逸らしている。
「アタシ泣かせたって、なんにも出ないよ」
でも、啓子はふて腐れてなんかいなかった。
私と千奈美はわかってる。
啓子のまつ毛が、涙で光っていた。
「アタシも、会えてよかった。千奈美と朋絵と……二人に会えて、本当によかったって思ってる」
照れ隠しする啓子が顔を上げて、私と千奈美を見た。
そして私たちは微笑み合う。
本当に幸せな笑顔だった。
私たち三人の頬を、涙が伝った。