3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 最終的な決定権はお腹の赤ちゃんの両親である千奈美と夏樹にある。
 いくら二人の実の両親だといっても、本人たちの同意がなければ中絶手術を受けさせることは出来ない。
 だから、意見は言うが決定はしない。
 産むか産まないかは、自分たちで決めなさい。

 それも大人たちの出した答えだった。

 まだ未成年の二人に、赤ちゃんの命をゆだねる。
 未成年でもこれは二人の親としての責任だった。

 中絶するなら中絶をすすめた手前、中絶費用等は援助する。
 だが、産む決意をするなら親からの援助は一切期待しない前提で考えなさい。
 二人だけで育てる事が出来ないのなら、諦めなさい。

 大人たちはそう付け加えた。

 でもさ、孫が産まれたらやっぱり可愛いものでしょ。
 今はそんなこと言ってても、どうせ産まれたらアレコレ世話もするし、お金の援助だってしちゃうんじゃない?
 なんて……思っちゃうけど、親にだってなにがあるかわからない。
 頼らなくてもなんとかなるって道も、ちゃんと用意しとかないといけないんだろう。
 お姉ちゃんも産後ケアサービスとか言ってたし、誰だって同じなんだと思う。

 重い。
 あまりに重い。
 重くて重くて潰れそうなほどの責任。
 赤ちゃんだって一人の人間だ。
 一人の人間の一生を背負う覚悟。

 だからこそ、その責任を求められた千奈美と夏樹は中絶をすすめられている。


『それで、ね。相談したいことがあるから……今度、家に来てくれない?』


 千奈美は電話の最後にそう言った。
 だから、同じような連絡を受けた啓子待ち合わせて私は千奈美の家に来ていた。


「千奈美の家に来るの、久しぶりだね」

「ね~」


 啓子と話しながら、ピンポーンと千奈美の家の玄関チャイムを鳴らす。

 千奈美の住んでいるアパートは少し変わった構造をしていて、二階に部屋があるのに玄関は一階部分にある。
 玄関を空けたら目の前が階段で、そこを上がったらいきなりリビングだ。


「あれぇ、出ないねー」


 返事のないインターフォンに啓子が首をかしげる。
 もう一回チャイムを鳴らして、しばらく様子を見るが沈黙したままだった。


「留守?」

「まっさかぁ~、だって千奈美がこの時間に来てって言ったんだよー」


 どんなに仲のいい友達でも、家族以外の人に妊娠を打ち明けたって知ったら、きっと嫌な顔をする。
 出来るだけ、もうそういう顔はさせたくないから……

 千奈美にそう言われて、私と啓子は親が留守だっていう時間を指定された。
 時間に間違いはないし、もし千奈美も出掛けることになったのなら連絡があるはずだ。

 家の中は静まり返っていて、人の気配はわからない。

 表札を確認してもやっぱり間違いないし、千奈美の家で合っている。
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