3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「ちょっと、電話してみるね~」
啓子が携帯電話を取り出して、千奈美に電話をかけはじめる。
私はもう一度チャイムを鳴らしてみた。
ピンポーンと鳴ったチャイム。
そのドアの向こうで、かすかに音楽が聞こえた気がする。
不思議に思って扉に耳を近づけると、確かに音楽は聞こえてきていた。
千奈美が大好きなアイドルグループの曲が聞こえる。
私もよく知ってるこの曲は、千奈美の携帯電話の着信音だった。
「いる……みたいだね」
「寝てるのかなぁ?」
ピンポーンピンポーンと、少しうるさめにチャイムを連打してみる。
こうしている間も、音楽は聞こえ続けていた。
心なしか、音が大きくなったような気がする。
近づいてきてる?
「あ、留守電になっちゃったぁ」
啓子の声とともに音楽も途切れて、静寂が訪れた。
じりじりと胸が焦げるような不安を胸に感じる。
なんだろう、この嫌な感じ。
家の中にいるのに、なんで千奈美はチャイムにも電話にも出ないの?
「スマホ、忘れて出かけちゃったのかなぁ」
啓子は私みたいな不安を感じないのか、間延びした声が耳に触れる。
本当にそうならいいけど、それじゃあ音楽が近づいた気がするのはなんで?
コトン
その時、扉の奥からなにがか落ちるような音が聞こえた。
「千奈美?」
チャイムも音楽も止んで静かになった家の中から、ゆっくりと階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
でも、様子がおかしい。
普通の階段の下り方じゃなかった。
足音がまばらで、不安定なステップ。
聞いてるだけで不安になるような足音に、嫌な予感が胸の中を広がっていく。
「千奈美、具合悪いのー?」
啓子が扉をノックして、中に声をかける。
中から返事はなく、代わりにカチャリと中から鍵が外された。
ゆっくりと、倒れ込むように全身で扉を押して、千奈美が中から姿を現す。
「啓ちゃん……朋ちゃ……」
ロウソクみたいに白い千奈美の顔が現れて、そしてそのままバランスを崩した。
「千奈美!?」
扉のまん前に立っていた啓子が千奈美を受け止めて、そのままその場に座らせる。
啓子に支えられた千奈美の体は完全に脱力していて、意識がないみたいだった。
顔は血の気が失せて、唇が真っ青になっている。
「朋絵、救急車呼んで!」
「う、うん!」
啓子に言われて、私は生まれて初めて119番をプッシュした。
電話をかけながら、私は千奈美から目が離せない。
千奈美は、期末試験前に三人で買いに行った白のロングスカートを履いていた。
その真っ白いスカートが、真っ赤に染まっていた。