3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 女、男、卵子、精子、不妊、妊娠、中絶、流産、死産。

 あまりにもたくさんのことを乗り越えて、生まれてくる。

 お姉ちゃんは大丈夫だろうか。
 私の姪か甥になる赤ちゃん。

 お姉ちゃんは来月出産だから大丈夫だと思いたかった。
 でも、そうじゃないこともある。
 臨月で死産したり、出産時のトラブルで母子共に亡くなったり、無事に産まれても乳幼児突然死症候群とか、産後の肥立が悪くてとか‥‥

 人生、何が起きるかわからない。

 千奈美はもう流産後の処置を受け終わったんだろうか。

 綺麗にお腹の中から赤ちゃんが流れてしまえば完全流産と言って、処置をせずに経過観察だっていう。
 そのままお腹の中に留まったまま亡くなっていたのなら残留流産で、あんな大量出血とかにはならないらしい。
 だから、千奈美は赤ちゃんや胎盤が一部だけ流れ出て一部残った不完全流産というのになるんだと思う。

 インターネットを見ながら、そう思った。

 赤ちゃんが亡くなってしまったか、生きたままなのかっていうことはとても大きな違い。
 だけど、流産後の処置と中絶手術の内容自体はとてもよく似ているらしい。

 今は人工中絶のみを指す言葉だけになってしまったけど、中絶の本来の意味としては自然な流産や死産をも含む言葉だったらしい。
 妊娠が中絶される、みたいな。

 人工的に妊娠を中絶するため、生きてる赤ちゃんごと子宮のなかを掻き出すか。
 赤ちゃんが亡くなって妊娠が中絶されてしまったから、感染症などの予防のために子宮の中を綺麗にするか。

 まったく違うのに、似てるなんて皮肉。

 授かって生まれて会えるのを楽しみにしていたのなら、赤ちゃんが亡くなって悲しみに暮れるなか処置を受けなきゃいけないって、やっぱり辛いんだろうな。

 千奈美はどうだろう。
 産むか産まないかも迷っていた赤ちゃんが亡くなって、処置を受けながらなにを思っているんだろう。

 流産は、自分の子どもを亡くすってこと。
 子どもを亡くすことがどれだけ辛いことなのか。
 私には想像もつかない。

 ニュースで小さい子が亡くなったと聞くたびに、私でさえ悲しくなる。
 それが自分の子ども。
 私が死んだら、お父さんとお母さんはどれだけ嘆き悲しむだろう。

 悲しみなんて簡単な言葉で言い表せられないぐらいのことだと思う。

 私は携帯電話を閉じて、鞄にしまった。

 日が落ちた暗い空は、車内の窓を鏡みたいにする。
 そこに映る、たくさんの人。

 私はエコー写真を思い出していた。

 私も千奈美もかわいいって思った赤ちゃんは、もういない。
 彼か彼女かもわからないまま、赤ちゃんは流れていってしまった。

 千奈美たちが産むか産まないか。
 それだけが赤ちゃんの生命を決定づけることなんだと思っていた。

 でも違う。
 私は命の儚さを思い知った気がする。
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