3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 千奈美の家に着いて、玄関のチャイムを鳴らす。
 出てきたのは、千奈美のお母さんだった。
 少し、やつれたような疲れたような顔をしている。

 そんな千奈美のお母さんに案内されて、私と啓子は千奈美の部屋に通された。


「朋ちゃん、啓ちゃん……」


 ベッドで横になっていた千奈美は、私たちが部屋に入ったのを見ると起き上がった。
 私と啓子は千奈美に駆け寄る。


「起きて、大丈夫なの?」

「うん……つわりもなくなって、ごはんも食べられるようになったから。むしろ、気分いいぐらい」


 そう言って笑うけど、ぜんぜん大丈夫そうには見えなかった。

 目の下に蒼いクマが出来ているのに、瞼は真っ赤に腫れている。
 今までもずっと沈みがちだったけど、それとはまた違う。
 憔悴しきった様子で、暗い影が落ちている。


「千奈美……」


 啓子がぎゅっと、千奈美を抱きしめた。
 私もそれにならって、啓子の上から千奈美を抱きしめる。

 そんな顔で笑わないで欲しい。
 泣きたいなら泣いて欲しい。
 私たちの前では、無理しなくていいんだよ。

 そんな気持ちを込めた。


「啓ちゃん……! 朋ちゃん……!」


 千奈美の声がみるみる濡れ崩れて、声を上げて泣き出した。
 言葉にならない大きな叫び声。
 それでもお母さんに心配をかけないように声を殺して、千奈美は私たちの腕の中で泣いた。

 千奈美の涙は、私と啓子の腕の中で溶けていく。

 震える千奈美の体を抱きながら、私の頬も濡れていった。
 啓子の体も震えている。
 啓子も声に出さず、静かに涙を流していた。

 ただじっと三人で抱き締め合って、涙を流し続ける。
 何も言葉を交わさずに、それでも心は確かに通っていた。


「赤ちゃん、いなくなっちゃった」


 泣き疲れるまで泣いて、千奈美は少し落ち着いたようだった。
 言葉にならない叫びが、やっと言葉になったようだった。


「うん、うん……」


 私は何度も頷いて、千奈美の言葉を受け入れる。
 千奈美が言葉を吐き出すのをうながす。


「わたしの、せいで」


 千奈美は泣きすぎて、しゃっくりを起こしていた。
 そのしゃっくりさえも、悲鳴のようだった。


「わたしのせいで、赤ちゃん死んじゃったよぉ……!」


 止まったはずの涙がまた溢れだす。
 千奈美は顔を覆って、泣き伏してしまった。


「違う。違うよ。千奈美のせいじゃない」


 自責の念に駆られる千奈美を、もっと強く抱きしめる。

 そうじゃない。そうじゃないんだよ。
 だって、調べたんだから。
 ちゃんと、調べたんだから。
 流産したのは、千奈美のせいじゃない。
 千奈美の力じゃどうしようもないことだったんだよ。


「そうだよ、アタシのときとは違うんだから」


 私の方が罪深いと、啓子が言う。


「違わない。だってわたしが弱かったから、だから赤ちゃん死んじゃったんだ!」

「そんなことない。そんなことないよ!」


 私は首を振り、千奈美の言葉を否定する。
 でも、千奈美も嫌々と首を横に振った。
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