3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~

「本当なの。本当に、わたしのせいなの! だって、わたし……わたし……赤ちゃんが死んじゃうってわかってた! 死んじゃうかもってわかってたのに、放っておいたんだから!」


 千奈美が、私と啓子の腕から逃れた。
 私たちを拒絶して、背を向ける。
 千奈美の顔は見えなかったけど、きっと涙でぐちゃぐちゃになってる。


「夏樹くんと会った次の日ぐらいから、おりものがピンク色してて……血が混ざってるのかもって、思った。赤ちゃんになにかあったんじゃないかって……」


 電話でいろいろ聞かせてくれたときに、聞かせてくれなかった異変。
 聞いてあげられなかった、異変。


「ずっと出血があって、どんどん量も増えて……でも、誰にも言えなかった。言わなかった!」


 背中越しに見えた、きつく握り締められた手が真っ白だった。
 産婦人科の後、アスファルトに擦りつけた痕が残っていた。


「わたしは、赤ちゃんを見殺しにしたの!」


 甲高い絶叫に、千奈美の肩が大きく揺れる。
 上手く息が吸えてないみたいで、それでも言葉は止まらなかった。


「だって、言ってどうするの? 産むって決めたわけじゃないのに、結局殺しちゃうかもしれないのに、言ってどうするのよぉ!」


 裏返った金切り声が、耳を貫く。


「啓ちゃんと朋ちゃんに相談したって、どうしようもないって、わかってた。でも……!」


 千奈美が流産したあの日。
 千奈美が相談したいと言っていた事柄。
 それがなんなのか、私は今知った。
 もっと早く知れていたら、何かが変わったりしたのかな。

 赤ちゃんの命は助けられなくても、千奈美の心はもっと救えたはずだった。

 啓子が大きく深呼吸をして、千奈美の震える肩にそっと手を伸ばした。
 私とまったく同じタイミングだった。

 何度拒まれたって、私たちは何度も千奈美を抱きしめるよ。

 千奈美に寄り添って、過呼吸ぎみになっている背中を優しくさする。
 とにかく千奈美の呼吸が楽になるように寄り添い、安心させてあげたかった。

 私たちは千奈美じゃないから、千奈美の気持ちを本当に理解することは難しいと思う。
 私は妊娠も流産を知らないし、啓子は妊娠を知っているけど中絶で流産したわけじゃない。
 それに、私たちに流産した経験があっても、千奈美とまったく同じ経験であることは有り得ない。

 決して私たちは同じ気持ちを共有できない。
 それでも、千奈美は一人じゃない。
 私たちは、少しでも千奈美に近づきたい。
 少しでも近しい気持ちを共有したいって思ってる。


「とにかく今はゆっくり休んで、体を大切にしてね」

「必要なときはいつでも呼んでよ~」


 呼吸が落ち着いた千奈美をベッドに横にならせて、体が冷えすぎないようにタオルケットを掛けてあげる。


「うん……朋ちゃんも啓ちゃんも、ありがとう」


 多くの言葉は交わさなかった。
 けど、ちょっとだけ。
 本当にちょっとだけかもしれないけど、千奈美の顔色が明るくなったような気がした。
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