3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「親に話して殴られて、千奈美にも今までのこと散々泣かれて、千奈美の両親にも土下座して……」
どうして、夏樹はそうしたんだろう。
「そもそも千奈美とヤったのも、付き合ってるのにヤってないなんて変だろってダチに言われたからだし」
誰の目を気にしていた?
「結局、俺はその程度のヤツなんすよ」
カッコイイとかカッコ悪いとか、友達がどうだとか。
そんな行動基準で、千奈美の告白を受けたときも彼女がいた方がカッコイイとか、そんな気持ちだったの?
「前の彼女にほとんどヤリ逃げみたいな感じで振られて……その腹いせみたいのもあったのかも。どうせ女なんてって」
「……そんなの、千奈美ちゃんには関係ないだろ?」
揺れてきしむブランコの音が止んで、黙って聞いているだけだった俊輔くんが言葉を挟んだ。
「……自分で自分を殴ってやりたい」
「殴ればいいじゃん?」
それに対して素っ気ない反応を返す俊輔くんに、夏樹は深い溜め息をついた。
「俺はもっとちゃんとすべきだったんだ。そしたら千奈美は妊娠しなかったかもしれないし、しても最初っからちゃんと責任取ればよかった」
夏樹くんのことばに、俊輔くんが嘲る。
「責任ってなにさ。高校中退して働くつもり? 千奈美ちゃんと一緒に子ども育てる気があったの?」
俊輔くんには、いつもおっとりしているイメージしかなかった。
なのに、こんな冷たい声が出せるなんて……
「それ、赤ちゃんが生きてるときにも言えた?」
「…………言えなかった。産んで欲しいなんて、言わなかった」
やっぱり、と思った。
夏樹くんがそう言っていたら、千奈美はすぐに病院に行っていたかもしれない。
私たちにどうしようって相談する必要もなかったはずなんだ。
すぐに病院に行かなかったのは千奈美の決断。
でも、その決断に周囲の人間が、夏樹くんが無関係なはずがなかった。
「自分たちで決めろって言われて、俺は千奈美の好きなようにしたらいいって言ったんスよ。なにを選んでも、責任は取るからって……でも千奈美ははっきりしなかった。さっさと中絶選べよって、正直思ってた」
友達の目ばかりきにしてきた夏樹の選択が、そう簡単に覆るとは思えなかった。
「前に中絶しろって言ったし、親もそうしろって言った。だったら、堕ろすしかないだろ。なに悩んでんだって」
千奈美に選択を託したのは、一見したら優しさに見えるかもしれない。
でも、結局は無責任でしかなかった。
「堕ろして欲しいとは言わなかった。言ったらまた悪役だ。どうせ堕ろすんだから、黙ってた方がいいだろ」
自分はなにも選ばない。
だから、選ばれた結果に責任はない。
優しい言葉の裏に見え隠れする本心に、千奈美は気づいていたんだと思う。
だから、夏樹くんじゃなくて私たちを呼んだんだ。