3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
第22話「これからは」

「朋ちゃん、啓ちゃん!」


 夏休みの真っ只中だというのに、受験生に遊んでいる暇はなかった。
 夏期講習で登校していた私と啓子のもとに、千奈美が駆け寄ってくる。

 千奈美は夏休みじゅうをかけて体調を整えて、二学期にはきちんと登校出来ていた。
 それから一年かけて気持ちも整えて、今では以前よりも明るくなったようにさえ見える。
 演技なのか本当なのか、わからないけれど。


「千奈美も来てたんだ~」

「うん、履歴書とかいろいろ見てもらわないといけないから」

「就職組も大変だね」

「進学組もね」


 私と啓子は大学への進学を希望していたけど、千奈美は地元での就職を希望していた。

 前よりもしっかりしたように見えるけど、強くならなきゃって無理をしてるようにも見える。
 本人が頑張ろうとしているのに、足を引っ張るわけには行かないけど、頑張り過ぎないかやっぱり心配になっちゃう。


「また三人でカラオケ行こうよ~」

「行きたい! ストレス発散は大切!」

「洋楽なら、英語のお勉強という言いわけも立つし!」


 学校の廊下の隅っこで、三人ではしゃぐ。


「そういえばさ、昨日!」


 談笑しているさ中、千奈美がにこにこ笑顔で切り出した。


「夏樹くんに会ったんだ」


 夏樹……この一年、ずっと聞いてなかったその名前に、心臓の音が大きくなった。

 本当に、ちょうど一年。忘れもしない。
 昨日は、千奈美が流産した日だった。


「それで、どーしたの~?」

「でねっ……」


 私の不安とは裏腹に、千奈美は満面の笑顔を浮かべていた。


「もう一度、やり直さないかって言われたの」


 満面の笑顔のまま、みるみる目に涙が溜まっていった。


「赤ちゃんのことも忘れない、私のことも今度はちゃんと大切にするって……一年間、ずっと考えてくれてたみたい」


 大粒の涙が、千奈美の頬を伝う。
 泣き笑いの姿で、お母さんになれなかった千奈美が笑う。

 ううん、千奈美は今もお母さんだった。
 三ヶ月だけしかお腹の中にはいられなかったけど、それでも千奈美の赤ちゃんは確かにそこにいて、生きていた。

 千奈美が忘れない限り、千奈美はずっとあの子のママ。

 私も忘れたりなんかしない。


「ホント、それ……?」

「うん! でもね……」


 涙をぬぐって、もう一度だけ満面の笑顔。


「振っちゃった!」

「ええっ!?」

「ええ~」


 思いもよらない返事に、私と啓子は廊下に響き渡る大声で驚いてしまった。

 慌てて口を押さえるけれど、もう遅い。
 登校している先生や生徒たちの視線が大集合していた。
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