3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「連絡取ってんなら、いい感じじゃんー」
「また今度、オープンキャンパスあるんでしょ? 来るって?」
「聞いてないけど……」
「聞きなよぉ~。でさ、デートの約束しちゃいなよ! 朋絵は地元なんだから、大学周辺案内できるでしょ」
「デートって、そんな!」
十八年間ずっと縁のなかった言葉に、動揺を隠せない。
啓子と千奈美とか、女友達と出掛けることもデートって呼んだりもするけど、今度はホントに本当のデート。
「ムリムリムリムリ、絶対無理!」
首がどうにかなるんじゃないかっていうぐらい首を振って拒否していると、啓子の携帯電話から聞きなれたメロディーが流れてきた。
てってれ てれてれ てって ぱふっ
「ちっ、俊輔か。いいところなのに~」
すっかりお馴染みになった、俊輔くんからの着信音。
普段は学校ではマナーモードだけど、夏休みだから設定していなかったみたい。
学校での使用は禁止されているけど、夏休みだからと講習中でなければ先生も大目に見てくれていた。
「もしもしー?」
携帯電話を操作して、電話に出る。
「無理にデートとかしなくてもいいけどさ、声をかけるだけかけてみたら?」
啓子が俊輔くんと電話をしている間も、会話は続いていく。
「だって、遠いところからこっちに来て、なんて迷惑だろうし……」
「来て欲しいじゃなくて、来るか来ないか確認するだけでもいいじゃない」
「そっかぁ……うん、聞くだけ聞いてみようかな」
オープンキャンパスで会ったんだし、また来るか聞くのは不自然じゃない気がする。
変に気取らずに、聞いてみようかなぁ。
「だーかーらー、そういうサプライズはいらない言ってるでしょぉ!」
そう思っていると、啓子がちょっと怒った感じに電話している。
こういうシーン、前も見たような気がする。
「うーん……わかった、ちょっとだけだよ」
そう言って電話を切った啓子は、浮かない顔をしていた。
「どうしたの?」
「……俊輔、志望校のA判定取れたんだって」
おめでたい話だけど、啓子の声は暗い。
「そっか……」
私と千奈美も、しゅんとしてしまう。
俊輔くんの志望校は東京にある大学だ。
夢を叶えるために、ずっと勉強を頑張って、啓子の赤ちゃんともサヨナラした。
高校を卒業するまで、俊輔くんがその大学に入るまでが二人の交際期間。
「それで大事な話があるって、今ここに来てるみたい」
啓子の視線が、窓の外に向く。
視線の先には校門があって、そこに俊輔くんが立っているのが見えた。
「別れ話、だろうなぁ……本格的に勉強しなきゃだし、アタシ邪魔だもんね」
「啓子……」
俊輔くんを見る、啓子の瞳は湿っていた。
「アタシ、行ってくるね」
勇気を振り絞る親友を見守るしか、私たちには出来なかった。
「うん、いってらっしゃい」
「待ってるから」
啓子は俊輔くんに向かって、一直線に走っていった。