3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
第23話「ずっと一緒」
「どうにか、ならないのかな……」
千奈美と並んで、窓の外の俊輔くんを眺める。
しばらくすると、校舎から啓子が出てきた。
真っ直ぐに、俊輔くんに駆け寄って行く。
そのひた向きな姿に、切なくなる。
あの二人が別れなきゃならないようなことなんて、なにもないように見える。
赤ちゃんを死なせた過去があっても、二人は確かに繋がっていた。
そっと寄り添うようにお互いを支えあっている。
人っていう字は、二人の人間が支えあって立っている字だっていう。
でも、そんなのは都市伝説みたいなものだって現代文の先生は言っていた。
本当は、一人の人間が仁王立ちしている姿から出来た字だって。
それに、書いてみたら分かるとも言っていた。
手書きの字では、左側ばかりがもたれかかって、右側は押しつぶされそうになっているようにも見えるだろうと。
一方的に左側が支えられてるだけだって、言っていた。
でも、啓子と俊輔くんを見ていたら、そんなことないんじゃないかって思う。
もちろん、左側は右側がいなくなれば倒れてしまうだろう。
でも、右側だって左側がいなくなってしまえば倒れてしまうんじゃないだろうか。
一本の棒が他と接することなく直立するのは難しいと思う。
それに、バランス良く支え合う人の字だってあると思う。
携帯電話に入ってる人の漢字の形とか。
仁王立ちする姿は立派かもしれないけど、他人を寄せ付けない恐さもあると思う。
孤独が人間だとは思いたくなかった。
支え合ってる姿が、人間だと思いたい。
啓子は自分が言ったから、俊輔くんは付き合ってくれてるだけだと思ってる。
でも、啓子が一方的に支えられてるわけじゃないと私は思う。
俊輔だって、啓子に求められて啓子を支えることで、俊輔くんも立っていられるんじゃないかって、そんな気がした。
俊輔くんだって、啓子に支えられてる。
二人は離れちゃいけない。
でも、二人の問題だから私には口出しできない。
私が無理矢理一緒にいるよう説得しても、支え合ってる関係は崩れてしまう。
啓子と俊輔くんが自分たちで一緒にいることを選択しなきゃ、意味はない。
でもやっぱり、二人が分かれることになったら口出ししちゃうんじゃないかって思う。
それぐらい、私は二人のことが大好きだった。
「あれ……?」
校門の前にある二人の姿が、別れ話をしているようには見えなくなってきた。
俊輔に駆け寄った啓子は俯きがちでいかにも別れ話を受けているようだったのに、それが今は顔を上げて真っ直ぐに俊輔くんを見ている。
俊輔くんの方が硬くなっていて、啓子は顔いっぱいで喜びを表現しているようだった。
そして二人は抱き合って――――キスをした。
「あわわわわわわ」
「きゃあー」
嘘っぽく、私と千奈美は声を出す。
いつもじゃれてる感じの二人だったけど、こういう風に公衆の面前で恋人同士のやり取りをしたことはなかった。
遠いけど、友達のキスシーンを初めて見た。
結構、長いキスシーンだった。
名残惜しそうに二人は離れて、俊輔くんは帰っていった。