料理音痴
「……おい、しい」
 
気が付いたら、涙がぽろぽろ零れてた。

……ああそうか。
私ずっと、一人で張り詰めてたんだ。

泣いてる私に坂下はなにもいわない。
部屋の中は食事をする音と、私が時々鼻を啜る音だけ。

「……ごちそうさま」
 
結局、全部完食してしまった。
やっぱり坂下は黙ったままだ。

「ごめんね、ほんと。
迷惑掛けて。
朝ごはんまでほんと。
……ありがとう」
 
玄関で靴を履き、笑顔で坂下を見上げる。
こんなふうに笑えるのは、たぶん坂下がごはんを食べさせてくれたからだ。

「……いつでも、メシ、食いにこい」

「えっ?……あ、うん」
 
なぜか視線を逸らした坂下の真意はわからなかったけど……そういってくれたことが嬉しかった。
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