イジワルな彼とネガティブ彼女
本田さんが何かしゃべってるけど、よく聞こえない。


39度っていう数字に負けそうで、うとうとしてしまいそうになる。


「保険証は財布の中か?」


「・・・はい」


「悪い、開けるぞ」


ガサゴソ音がして、本田さんがまたどこかに電話している。


しばらくすると、


「病院行くぞ」


という本田さんの声とともに、フワッと体が浮いた。


・・・な、なにこれ?


恐る恐る目を開けると、毛布にくるまった私は、いわゆる『お姫さま抱っこ』されていて、本田さんの顔が至近距離にあった。


「・・・お、おろしてください」


弱々しい声で頼んでみたものの、


「いいから、黙ってろ」


聞いてくれるはずもなく。


そのままタクシーに乗せられて、休日診療している病院へ連れていかれた。


診察室を出ると、本田さんが待っていてくれた。


「どうだった?」


「・・・インフルA型でした」


「じゃ、薬ちゃんと飲めば治るな」


隣に座った私を支えてくれる腕に、今だけは甘えていようと思った。





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