狼陛下と仮初めの王妃
甘くキケンな新婚生活
夜明けの覚醒と眠りの狭間で、コレットは額と頬になにかが触れているのを感じていた。
肌を掠めるように触れては離れていくそれは、少しくすぐったいけれどとても心地いいもの。
風に揺れた草花の柔らかい葉が肌にあたっているような、そんな優しい感触。
体を包む柔らかい毛布と少し堅く感じるクッションは温かく、いつまでも眠っていたくなる。
そのしっかりと安定感のあるクッションに顔をうずめると、髪をそっと引っ張られるような感覚がした。
それは横髪を梳いているように、耳の辺りを何度も往復している。
「ん……くすぐったい」
コレットは首をすくめながらも、クッションの中に潜るように体を寄せた。
だって、柔らかすぎない絶妙な堅さは、牧場のベッドのクッションと似ていてすごく落ち着くのだ。
「君は、まだ起きないのか?」
極至近距離から発せられた低い声が、コレットの鼓膜をくすぐる。
「や、ん……」
首筋がぞくぞくと震えてしまい、ますます肩をすくめる彼女の頭の上で、ちいさな声が漏らされた。
「これは天然か……」
頬を預けていたクッションが急に動き、コレットはぱちっと目を開けた。
すると紫色の瞳が間近に迫っていた。
長めの前髪からのぞくそれはまっすぐにコレットの目を見ており、なんだかちょっと怒っているように思える。
そういえば一緒に眠ったのだと思い出すが、起き抜けのびっくりな事態にうろたえてしまい、なんと言っていいか分からない。
が、とりあえず声を絞り出した。
「へ、へ、へ、陛下、おはようございますっ」
「うむ……おはよう」