狼陛下と仮初めの王妃
さて、リンダが想像するようなめくるめく甘い営みは皆無で、ただ額にキスをされただけのコレット。
それでも、リンダの感じる通りの艶を放っていた。
陛下の優しい指使いと唇の感触がいつまでも額に残っていて離れない。
それに、男性とベッドを共にしたという事実が今更ながらに恥ずかしくなる。
間近で見た瞳と耳にした声を思い出せば、どうにも頬が熱くなってしまう。
結果、しっとりとした色香を身にまとっていた。
陛下に会うのも気恥ずかしいコレットに対して、彼は朝食に向かう時も食事中も普段と変わらず、狼のように眼光鋭く威厳を放っている。
堂々と歩き、陛下にとって額にキスすることは、手を握ることとあまり変わらないよう。
コレットだけがドキドキして、照れている。
彼は女性と一緒に夜を過ごすことに慣れているのか?と思う。
けれど、アーシュレイは『昔も今も全然女っ気がない』と言っていた。
だからまったく慣れていないはずで……男性は誰もがキスをしてもドキドキしないんだろうか。
食事の間で、テーブルの向かい側にいる彼は涼しい顔をしている。
コレットが悶々と考えながら進む朝食は静かで、まるで最初の日に戻ってしまったかのよう。
互いに一言も話さずに終わり、陛下は婚姻前と同じくそのまま執務に行ってしまった。
そしてコレットも、迎えに来たアーシュレイとともに、王妃の仕事をするべく食事の間から出た。