狼陛下と仮初めの王妃
胸に秘めるもの

王妃の執務室にある小さな執務机には、手のひらにすっぽり収まるほどの小さな鉢植えが置かれている。

シンプルな青い陶器の鉢に、二輪の白い花が咲いている。

ラッパの形にも似た小さな白い花が寄り集まって一つの花を成しているこれは、陛下がコレットに贈ったもの。

先日のお出かけの折、摘んだ花を台無しにしてしまって悲しむコレットを見、せめてもの慰めになればと陛下が命じて取り寄せたもの。

この花はお菓子のような甘い香りを持っているので、執務中でもお腹が空いてしまうのが玉に傷。

けれど、あれから沈みがちだったコレットの気分を上げるには、十分すぎる素敵な贈り物になっている。

陛下は女心を掴むのが上手だと、コレットは思っていた。


左に置いてある書状の束から一つを取り出して読み、文末にある空白の場所に名前をサインしていく。

羽ペンの扱いにも手慣れたもので、サラサラとなめらかに動く。

王妃としての仕事もかなり板についてきたものである。


小さな案件から大きなものまで、毎日出される申請書や報告書の数は多い。

最近は使用人同士の喧嘩の始末書なども、コレットに回ってくるようになった。

喧嘩と言っても小さなもので、お互いの勘違いから始まった話し合えば収まるようなものばかり。

多分重大なものは陛下にまわっているのだろう。

そんな激しい喧嘩があるかどうかは知らないが。


< 141 / 245 >

この作品をシェア

pagetop