狼陛下と仮初めの王妃
まさか魔の仕業……?そう思えば、途端に書庫の中が恐ろしい空間に変わる。
ミネルヴァの言っていた『禁じられた書物』が、実は『呪われた書物』で不思議な力を持っており……と子どもの頃に読んだ物語のような世界が頭に浮かぶ。
再びコツンと音がして、コレットの体がビクッと震える。
まもなく正体の分からない音が連続でし始めた。
それは、コレットのいる棚まで迷いなく近づいてくるように思える。
カツカツとリズミカルなのは間違いなく足音で、遅いコレットを心配した騎士が様子を見に入ってきたのだろうか。
まもなくしてコレットの瞳に、棚の陰から現れた陛下の姿が映った。
恐ろしい空想が一気に消えて、ふぅっと大きな息を吐く。
そうだった。彼も王として書庫を利用することもあるのだ。
正体が判明して安心すれば、変なことを考えていた自分が可笑しくなって、クスクスと笑いがこぼれた。
「まったく君は、いつも意外な反応をするな。なにが可笑しい?」
楽しそうに笑うコレットの体を、陛下の腕が囲う。
抱きしめているわけではなく背中辺りで手を組んでいるので、コレットの動きが制限されずに苦しくならない。
ひとしきり笑った後に、勝手な想像を巡らせて恐ろしくなったことを話すコレット。
『禁じられた書物』のことも自然に話していることに気づくが、陛下の表情は特に変わらなかった。