狼陛下と仮初めの王妃
「……陛下も、書物を探しにきたんですか?」
「いや、少し時間が空いたので、一緒に散策をと思ったんだが……」
陛下は、コレットの執務室を訪ねたが留守だったので、とりあえず書庫に来てみたと言う。
「ところで、君はこの棚でなにを探していた?」
「外交記録を探していたんです。でも、どれがいいのかさっぱり分からなくて」
「外交か、君は真面目だな。だけど、ちょっと的はずれだ」
「え、どういうことですか?」
首を傾げるコレットの手を引いて、陛下は別の棚へと誘った。
「あちらは、法の書物が収まった棚だぞ。外交の記録ならここだ。そうだな……これが君にオススメだ」
コレットの小さな手に、朱色の書物がのせられた。
陛下は、即位して一年足らずでここにある書物を全部読んだらしく、コレットが希望を言えばすぐに答えが返ってくる。
どの書物になにが書かれているのか、全部覚えているみたいだ。
陛下は強いだけでなく、とても頭がいいと思う。
「ありがとうございます」
「ところで、君は、閲覧を禁じられた書物のことを誰から聞いた?」
「あ……」
声は穏やかだけれど、見下ろしてくる瞳はとても鋭くて、コレットはこくんと息をのんだ。
さっき話したときは無反応だったのに、聞き流してはいなかったのだ。
コレットは、ミネルヴァに言われたことと、四角い扉を見つけて開けることを試みたことも話した。