狼陛下と仮初めの王妃
「なるほど、君はなかなか好奇心旺盛だな」
そう言って口角をあげた陛下は、コレットの手を引いて書庫の奥へと進んでいき、四角い扉の前に立った。
「君が見つけた扉はこれだな?」
「はい。陛下は、どんな書物か知っていますか?」
「ミネルヴァの言う書物が、この小さな物入れの中にあることは知っている。なにが書かれているかは知らないが、禁じられてるのは、国王が読む必要のないものということだ」
そんなものがどうして代々残されているかは、先代から正式に書庫の鍵を受け継いでいないので、陛下には分からないという。
「陛下は、どんなものか確かめてみたいと思わないんですか?」
ちょっぴりわくわくしながら尋ねるコレットに、陛下はきっぱりと言った。
「思わないな。必要のないものには興味がないし、時間を割きたくない」
陛下は会議の参加や執務があるうえに、街に視察に出掛けたりするのだ。
合間を縫って、剣の腕を鈍らせないよう鍛錬もしているはずだ。
ちょこちょこっと執務をするコレットよりもはるかに忙しい人だ。
仕事以外にはなにも興味がないのだろうか。そう訊けば、陛下は首を横に振った。
「私が今興味があり、全部を知りたいと思うものは、たったひとつだけある」
「ひとつだけ?それは、なんですか?」