狼陛下と仮初めの王妃
盆地にあるガルナシアの都には、アルザスの山の麓にある街の入り口から城まで、ほぼまっすぐに伸びる通りが一本作られている。
内戦後、街を修復する木材や資材などを運ぶ荷車のために整備されたもので、大きな馬車でも余裕を持ってすれ違えるほど道幅が広い。
どの道にも通じているため便が良く、通り沿いには宿屋や食事処が多く建ち並ぶ。
都街を訪れる人も街人も多く行き交う、商店通りに次ぐ活気のある道だ。
今日も荷車を引く急ぎ足の行商人や、旅装束を身にまとった人々がのんびりと歩いている。
その中を、黒塗りの立派な馬車を中心とした一行が城に向かって進んでいた。
馬には黒地に鮮やかな朱が縁取る紋章入りの装飾馬具がつけられ、ぴかぴかに磨かれた黒い車体には銀の紋章が日を受けて鈍く光る。
立派な四名の騎士を先頭にし、大きな馬車と荷車二台を守るように騎士が囲むその長い列は、一目で高貴な人のものだと分かる。
道行く人は隅に避けて立ち止まり、頭を低くして敬意を示した。
一行を目にした都の人々は、こんな立派な隊列がガルナシアを訪れるのは久しぶりで、国の立て直しがほぼ完了したのだと目を輝かせている。
内戦の間も終了後も、ここ数年間ずっと華やかな外交など皆無だったから、感激もひとしおだ。
国王陛下夫妻は仲睦まじいと噂で、子宝に恵まれるのも時間の問題。
加えて外交が始まるならば、陛下の世も安泰!この国はますます発展すること間違いなし!と、喜びあうのだった。
そんなふうに街の人々の注目を浴びた煌びやかな一行は、やがて城門をくぐって城の正面入口に着いた。