狼陛下と仮初めの王妃
ゆるゆると停まったその馬車を、ミネルヴァ大臣とジュードが丁重に出迎える。
ミネルヴァが馬車の傍まで進み出、ジュードはその後方で頭を低くした姿勢で控えている。
馭者が恭しく開けた扉から出てきたのは、金髪碧眼の見目麗しい貴公子だ。
モスグリーンの正装を身に纏い、短めにカットされた髪が爽やかな印象だが、瞳にはサヴァル陛下に負けず劣らずの強い光がある。
「ようこそお出でくださいました。ハンネル国王太子、エドアールさま。こうして再びお会いできるとは、このミネルヴァ、恐悦至極に存じます」
喜色満面のミネルヴァに対し、エドアールは外交上の微笑みを向けた。
「そうだな、この城を訪れるのは八年ぶりになる。城自体は、まったく変わらないんだな」
エドアールは白亜のガルナシア城を見上げ、まぶし気に目を細めた。
白い煉瓦と石で造られた城は、内戦があったことなど感じないほどに無傷で美しい。
壁を見ただけでも、城を守り内戦を収めた騎士たちは相当に強いと分かる。
そんな騎士たちをまとめた現国王はどんな男だろうか。
「さて、早速新しい国王陛下にお会いしたいんだが」
「はい。サヴァル陛下は、謁見の間でお待ちでございます。こちらへどうぞ」
エドアールはミネルヴァの先導で城に入り、四名の騎士を従え謁見室に向かう。
ジュードはエドアールの姿が見えなくなるまで礼を取って、お付きの者たちに案内をする。
城の入り口付近は、ひとしきりざわめく。
陛下即位後初、ガルナシア城での外交が始まった。