狼陛下と仮初めの王妃
アーシュレイを相手に作法のおさらいをしたりして、コレットなりの努力をしたけれど胸の中は不安でいっぱいだ。
そんな彼女の手に、陛下の大きな手のひらがそっと触れた。
「ありのままでいれば大丈夫だ。君は君であって、決してそれ以下にはならない」
陛下は謁見の間の扉を見据えたまま、コレットだけに聞こえるような小さな声で言った。
その横顔は、婚儀の日に会食の席に向かったときと同じように気迫に満ちている。
平気そうに見えるけれど、もしかしたら彼なりに緊張しているのかもしれない。
それなのに、コレットが王妃として振る舞うことの圧力で心が折れそうなとき、陛下は気が楽になる言葉をくれる。
婚儀のときも、今も、いつも気遣ってくれているのだ。
重ねられた手のひらからは、彼の優しさが伝わってくる。
心がほんわり温かくなるのを感じながら、コレットは小さな声で「はい」と返した。
すると陛下の手はすぐに離れていったけれど、ぬくもりはまだ残っている。
コレットはそれを逃さないよう、ぎゅっと自分の手のひらを重ねた。