狼陛下と仮初めの王妃
「ハンネル国王太子、エドアール・ベリ・ハンネルさまでございます」
謁見の間の入口の方から役人の声が響き、両開きの扉が音もなく開かれた。
中心にエドアールが従者を従えて立っている。
王太子らしい威厳の中にも華やかさがあるのは、やはり生まれながらの王族と言うべきか。
堂々と中央まで進み出て優雅に礼をとり、時候を交えた挨拶をした。
それに対し、陛下も旅疲れを労った社交的な挨拶を返す。
エドアールは道中見た景色が美しかったことを話し、ふとコレットに目を向けて柔らかく微笑んだ。
「サヴァル陛下にはすでに妃がおられるとは、存じませんでした。大変お美しいお方です」
お目にかかれて光栄だと言って丁寧に礼を取るエドアールに、コレットは微笑みながら返した。
「わたしこそ、エドアールさまにお会いできて嬉しく思います」
その様子を見ていたミネルヴァが、ここぞとばかりに、横から口を出した。
「エドアールさま。王妃さまのご両親はハンネルのご出身でございます。父方は子爵家、母方は公爵家であらせられます。ハンネルと我が国の結びつきが強くなりました」
「我が国の……!そうですか!それはとても喜ばしいことだ。ハンネルからも祝いを申し上げたい。是非、王妃さまの家名をお教え願えますか?」
コレットは震えそうになるのを堪えるように、膝の上にある手をぎゅっと握って笑顔を作った。