狼陛下と仮初めの王妃
社交的な冗談交じりに言う彼に、コレットは素直に返した。
「はい。わたし、エドアールさまをずっとお待ちしていたんです。だから、すごくうれしいです」
「へえ、それは光栄な言葉だ。私も、こうしてダンスができるのがうれしいよ。踊るあなたは、まるで花の園を舞う女神のように、高貴で美しい。このまま浚っていきたくなる」
青い瞳を柔らかく光らせて甘い言葉を言うエドアールは、さすが社交においては百戦錬磨の王太子といったところか。
女性を喜ばせるツボをちゃんと心得ている。
大抵の女性ならば「まあ、エドアールさまったら。うれしいですわ」と言って頬を染めてうつむくところだ。
そうやって女性の心を掴み、王太子として人気を高めて外交に生かしてきた。
けれどもコレットにはまったく通じず、エドアールにとって予想外の反応をする。
真剣な表情をしており、純粋にキラキラと光る瞳がまっすぐに見つめていた。
「あの、できれば静かなところで、エドアールさまとふたりきりになりたいです」
「ふたりきりとは、それは……」
エドアールは眉をあげて驚いた表情をするが、コレットの表情から真意をくみ取った。
そして、その考えが正しいのか確認するためにも周りに視線をさまよわせると、その青い目が一点を捕らえてスッと細くなった。