狼陛下と仮初めの王妃
「あなたが、そんなことを言っていいのかい?今の言葉は、彼に聞こえたかもしれないよ。ほら、見てみるといい」
「え?」
エドアールが視線で示す方を見やると、陛下が赤いドレスを着たご令嬢と踊る姿があった。
うっとりと見上げている彼女を見る陛下の笑顔のない表情は、特にいつもと変わらないように見える。
どうしてエドアールは、彼に聞こえたと思ったのだろうか。
余裕のないコレットにはまったく分からないし、深く考えることができない。
それよりも、今はもっと大事なことがあるのだ。
夜会が始まってからずっとそわそわじりじりしていて、ようやく巡ってきた大チャンス。
しばらく城に滞在しているとはいえ、彼がガルナシアに来た目的は政治的なもの。
今度はいつ会って話せるか分からない。
この機会を逃してはならないと、とにかく、コレットは必死だった。
ふたりきりになりたいと、真剣にお願いをする。
するとエドアールは、踊りながらも自然に中央から下がるよう、スマートにコレットを誘導した。
そうしてテラスに出て窓をぴっちりと閉めると、大広間から漏れる音が微かに聞こえるだけになる。
貴族たちは誰も外に出ておらず、テラスから少し離れた位置で警備をする騎士たちの姿があるだけ。