狼陛下と仮初めの王妃
「静かとは言えないが、ふたりきりだ。ここでいいかい?」
「ありがとうございます。エドアールさまとは、もう一度、ゆっくりお話したいと思っていたんです」
「あなたが気になっているのは、私が昼間に言ったこと、かな?」
「はい。エドアールさまは、なにか知っているんですか?わたしに教えてください!」
コレットがすがるような瞳で訴えると、エドアールの瞳が真摯になり、ゆっくり口を開いた。
「分かった、知っていることを話そう。……だけど、あくまでも、私の憶測が生んだ戯言だと思って聞いてほしい」
コレットがうなずくのを確認したエドアールは、遠くを見るような表情で語り始めた。
「あなたは、ガルナシアには“禁じられた書物”があることを知ってるかい?」
「あ、はい……知っています。でも、実物は見たことがありません」
「そうか。私は、先代国王であるユーリスとは、幼いころからの付き合いだったんだ。昔はもっと国交が盛んで、頻繁に行き来があった。だから彼と会えば、互いになんでも話し、文武ともに競い合ってきた」
コレットは幼い頃を思い出していた。確かに、先代国王が亡くなるまでは、ガルナシアも他国との交流が盛んだった。
商店には異国のものが多く売られていたし、旅人も他国の人が多かった。
内戦が始まるとともに国交は絶えていったのか、だんだん異国の人も見なくなった。