狼陛下と仮初めの王妃
「それは、もしかして」
コレットが頭の中でまとめた考えを言おうとすると、ガタンという音とともに、音楽と笑い声が大きく聞こえてきた。
ビクッと体を震わせたコレットとエドアールが同時に振り向くと、テラスに出て来た貴公子とご令嬢のカップルがぺこりと頭を下げた。
「あ、これは、すみません。どうもお邪魔しました……あの、すぐに庭へ行きますので」
ハハハと力なく苦笑いをして、ふたりしてテラスの階段からそそくさと庭へ下りていく。
それを見送った後、エドアールは言った。
「今あなたの考えている通りかもしれない。だけどこの件はサヴァル陛下も承知していて、すでに解決していることもあり得る。今は体制が昔とは違うだろう?だけどもしかしたら、芽が残っているかもしれない。用心はした方がいいと思うんだ」
エドアールは、ただの思い過ごしだといいがと、薄く笑って話を締めくくった。
彼の言うことは証拠もなく仮定ばかりで漠然としているが、言葉の端々に、他国のことに深く立ち入れないことへのもどかしさがあった。
仲のいい幼馴染みを喪った寂しさは、コレットにはとてもよく分かる。
彼なりに、ガルナシアの行く末を案じてくれているのだろう。
「お話してくださり、ありがとうございました」
「あなたに聞いてもらえて、私もすっきりしたよ。さあ、そろそろ中に戻ろうか。きっと、サヴァル陛下がやきもきしている」