狼陛下と仮初めの王妃
大広間に戻ると、エドアールの傍には待ち構えていた令嬢たちが群がってきた。
彼を見つめる彼女たちの表情はとても華やいでいて、国の奥底にある陰謀などとは無縁で、コレットにはとてもまぶしく映る。
微笑ましく思っていると、その中のひとりがコレットをじーっと見つめていることに気づいた。
その令嬢は、黒髪で綺麗な青色のドレスを着ており、コレットと同じくらいの歳に見える。
まだダンスを踊る前、陛下の周りにいた気がした。
じーっと見つめているそのご令嬢に、コレットが微笑みかけると、訝しげな表情をして近づいてきた。
「コレット……?あの、ぶしつけでございますが。王妃さまは、幼い時に、わたくしと会っていませんか?」
「……え?」
「わたくし、ナタリーと申しますの。邸の庭で遊んだのを、覚えていませんか?」
「ナタリー?」
その名前を聞いたコレットの脳裏に、幼い頃のことがよみがえった。
まだ七歳くらいの頃、お針子の母と一緒に大きなお邸に出入りしていたことがある。
母が仕事をしている間、そこに住んでいた女の子と庭でままごとをして遊んでいた。
それは確かにナタリーという名前の子で……よく見れば、目の辺りなどに子どもの頃の面影がある。
思い出せばうれしくて、うわー懐かしい!と声を上げそうになるコレットだけれど、今はぐっと堪える。