狼陛下と仮初めの王妃
「あ……ごめんなさい。分からないです。人違いです」
「そう……ですか?ものすごく似ていたものですから……大変失礼いたしました」
訝しげな表情のままのナタリーに、「いいえ、気にしないでください」と笑顔で言い、コレットは逃げるようにその場を離れた。
まさか子どもの頃に遊んでいたご令嬢と会うとは思っておらず、よく考えれば、冷たい汗が出るのを自覚する。
彼女は、どこの家の娘だっただろうか。
遊んだ記憶はあるが、家名までは覚えていない。
「陛下は、どこなの?」
談笑する人でいっぱいの中陛下を探してキョロキョロしていると、ふと横から伸びて来た腕に捕まえられた。
驚くコレットだけれど、強いけれど優しい腕は誰のものかすぐに分かる。陛下だ。
「まったく、ようやく見つけた。君は、私から離れるな」
頭の上から、なんとも低い声が降って来て、コレットの胸がトクンと鳴る。
そして、陰謀やナタリーのこと、胸の中に渦巻いている言い知れぬ不安が和らいでいく。
陛下の腕には、安心感を与える魔力でも備わっているかと思う。
「さあ、君に挨拶をしたがっている連中は山ほどいるんだ。行くぞ」
コレットは陛下の腕に誘導されて上座まで行く。
そして貴族方からの挨拶やダンスの相手をこなしていき、まもなく、コレット王妃の初めての夜会は終了したのだった。