狼陛下と仮初めの王妃
コレットは、鏡越しにリンダの顔をじっと見つめた。
リンダは、元々アーシュレイの家に仕えていた侍女だ。
可能性は低いが、陰謀に関することとか、妙な噂を耳にしたことがあるかもしれない。
ずばりと訊くことはできないが、コレットは慎重に口を開いた。
「……先代の国王さまは、若くして亡くなったでしょう?その原因を、リンダは知ってる?」
「はい。先代のユーリス王さまは、流行り病で亡くなったと、聞いています」
あの頃リンダはまだナアグル家に仕えておらず、自宅でお触れを聞いたと言う。
「流行り病。やっぱり、そうよね……」
コレットは肩を落として沈み、大きなため息を吐いた。
そうなのだ、リンダの歳はコレットとあまり変わらないのだ。
訊いても期待できる答えは得られるはずがない。
「コレットさま?先代さまが、どうか……」
主の謎の落胆ぶりを見て、不思議に思ったリンダだが、ピンと気づいた。
やっぱり夜会で何かを言われたに違いないと思う。
お世辞や牽制が渦巻く上流社会の陰湿さは、ナアグル家で嫌というほど見て来たのだ。
リンダは、ここは自分の出番とばかりに、パシッと主の手を握った。
「いいえ、コレットさま。大丈夫でございます!」
「へ、なにが?」