狼陛下と仮初めの王妃
軟膏を貼り身動きできないニックは配達の仕事もできないため、急きょコレットが担うことになったのだ。
十四歳の時に両親を亡くし、遠い親戚であるニック夫妻のもとに身を寄せてから四年が経つ。
が、牛小屋の掃除と針仕事が主で配達の仕事など初めてのこと。
荷馬車を操るのもおぼつかなく、コレットはでこぼこの道に注意しながら慎重に馬の手綱を引いた。
ぽっくりぽっくりと鳴る蹄の音を聞きながら、コレットは眼下に広がる都の街を眺めた。
はるか向こうに見える城を起点にし、整備された美しい街並みが広がっている。
これがつい三年前までは壊れた建物と崩れた道でとても悲惨な状態だったとは、到底思えないほどだ。
ニック夫妻のお世話になるまでは、コレットは家具職人の父とお針子の母と都に住んでいた。
その頃のガルナシア国は政情が不安定で、内戦が国のあちこちで起こっていた。
四年前は都までもがその戦場の舞台となり、家や店が壊され、多くの都の人が戦いに巻き込まれて刃にかかってしまった。
コレットの両親もその犠牲者である。
今から三年前にその激しい内戦を収めてバラバラだった国を一つにまとめたのが、今の国王サヴァル陛下だ。
狼のように凶暴で恐ろしいと評判で、噂ではひと睨みするだけで大の男が失神してしまうとか、猛り狂う獣も姿を見ただけで腹を見せて降伏するとか。