狼陛下と仮初めの王妃
「コレット・ミリガン。どうしてそんな隅にいるんだ。私の傍まで来い」
抑揚のない冷たい声が部屋の中に響く。
陛下はソファに座ることなく待っており、コレットは着慣れないドレスとヒール付きの靴に苦労しながら、ゆっくり歩いていった。
ふかふかの絨毯の上をそろそろと歩く姿を、陛下は無言のままじっと見つめている。
そのとんでもない威圧感と緊張感で、頭がくらくらして足元がふらつきそうになる。
それでもなんとか歩くが、足がもつれてふかふかの絨毯にヒールを取られてしまった。
「あっ」
転びそうになり、急いで体勢を立て直そうとするも、ドレスが足に絡まってしまってうまくいかない。
「きゃあっ」
前のめりに倒れていくコレットの視界が、ぽすんという衝撃とともに真っ黒に染まった。
「まったく、君は……こんな場所で転ぶとは、しっかり教育せねば駄目だな」
頭の上から声が降って来て、心臓がドクンと震える。
サラリと揺れる銀の髪が額をくすぐり、見上げれば、紫の瞳と視線が合ってしまった。
「あ……あ……」
なんということだろうか。
不可抗力とはいえ、サヴァル陛下の胸に飛び込んだ形になっていた。