狼陛下と仮初めの王妃
「も、申し訳ございませんっ。とんだ失礼をしました」
慌てて離れようとするも、却って腰を引き寄せられてしまう。
おまけに長い指が顎に添えられ、くいっと上を向かされた。
「私に顔をよく見せろ」
陛下の紫の瞳が、コレットを観察するようにゆっくり動く。
豊かで美しいブロンドの髪、長い睫毛に縁どられた青い瞳、ほんのり染まった頬、ピンク色の唇。
白い肌は吸い付くように滑らか。
それらひとつひとつの美しさを確認し、サヴァル陛下はスッと口角を上げて、手を離した。
「コレット・ミリガン。沙汰を申し渡す」
落ち着いた静かな声が室内に響き、コレットはきちんと居住まいを正した。
「……はい」
「君を、私の妃とする」
「え?」
告げられた言葉は、にわかに信じがたいもの。
耳を疑いつつもコレットは顔をぱっと上げた。
「あの……すみません。今、なんとおっしゃいましたか」
「この国の王妃になってくれ、と言ったんだ」
「はい!?あの、王妃とは、そんな……わたしには勤まりません」
「これは、罪に対する償いだ。永遠ではなく一時的なもの。本物ではなく“仮”だ。君に拒否権はない」
身を射るような強い眼差しで見つめられ、コレットはその場に縫い止められたように動けなくなった。
「一週間後に儀式を行う。それまでに歩き方を覚えておけ。いいな」
サヴァル陛下はメガネの騎士に「後の処理を頼む」と命じ、足早に部屋を出ていった。