狼陛下と仮初めの王妃
番外・狼陛下の求愛~sideサヴァル~
夜の帳が降り、月が白亜のガルナシア城を淡い月光色に染める。
今は侍従や下男も仕事を終え、各々敷地内の寮でくつろいでいる時間。
夜勤の警備が巡回するほかは城内を移動する者はなく、ひっそりと静まっている。
城壁に並ぶたくさんの窓にはほとんど灯りが点っておらず、最上階の王妃の部屋にも灯がない。
その暗い王妃の部屋の中、サヴァルはひとりでソファに座っていた。
一旦は自室のベッドに入ったがどうにも眠れず、ここに来てしまっていた。
背もたれに体を預けて腕を組み、くつろいだ姿勢でいるが、紫色の瞳はただ一点に注がれている。
鋭さの中にも憂いを帯びる瞳には、窓際にあるひじ掛け付の椅子が映っている。
カーテンが閉められておらず、柔らかな月光に浮かび上がるそれは、部屋の主がいない寂しさをサヴァルに物語ってきていた。
いつもあの椅子に座って刺繍をしていたコレット。
細い指が作り出す花の刺繍はたいそう美しく、針を刺す表情はなんとも楽し気だった。
心底愛しく、いつまでも眺めていたいと思うのと同時に渇望もした。
その楽し気にきらきら輝く瞳を、自分に向けてほしいと。
『お沙汰の終了を申し渡す』
今からほんの数時間前にそう告げた瞬間、コレットの体が強張ったように見えた。