狼陛下と仮初めの王妃
それから一夜明けた城内では、僅かながら、コレットがいないことに気づく者たちが出始めた。
そんな彼らには、コレットは所用のため一時的に実家にいると伝えると、納得して仕事に戻った。
極近しい存在である侍女のリンダとジュード、それに近衛騎士団の連中には昨日のうちに真実を話してある。
一瞬静まった後に場が騒然とし、リンダは心底驚いて泣き崩れ、アーシュレイに支えられていた。
『どうして帰してしまったのか!』
『何故我らに黙っていたのか』
騎士団員からは非難の声を浴びせられた。
苦楽を共にしてきた彼らは、容赦なくサヴァルに詰め寄ってきた。
まったくその通りで一言も言い返さず、目を閉じて彼らの言葉を噛みしめていた。
すると止まない非難に耐え兼ねたのか、アーシュレイが声をあげた。
『皆さん、そうは言いますが。敵を欺くには、まずは味方から……という言葉をご存知ですか』
メガネを光らせつつも静かに問われると、騎士団員らはすぐに口をつぐんだ。
アーシュレイの醸し出す静かで不気味な気配は、毎度ながら本当に大したものだと感心する。
静まった皆に、コレットを迎えに行く旨を伝えたら一転して喜びに変わったのはいいが、なんとも仰々しい事態になってしまった。
サヴァルとしては国王陛下としてでなく、ひとりの男として、単身で愛を伝えに行くつもりだったのだが……。