狼陛下と仮初めの王妃
コレットの喜ぶ顔が見られるならば、どこでだって式を挙げてやろう。
もしも求婚を拒否されたら、リンダはどうするつもりなのかと、ふと思う。
意気消沈する姿が目に浮かぶが、サヴァルにはそうさせない秘策がある。
一生腕の中から逃さないよう、縛るもの。
それは権力を使った最終手段であって、もしかしたらコレットを悲しませるかもしれない。
使わずに済めば、それが一番いいのだが……。
リンダはアーシュレイの馬に乗せ、サヴァルは出発の号令をかけた。
団長を先頭に隊列を組んだ立派な騎士団が、城門をくぐっていく。
都街を通り抜けてアルザスの山を登り、だんだん牧場が近づくにつれ、サヴァルの心臓が騒ぎ始めた。
手綱を握る手が震えており、緊張しているのを自覚する。
どんな強敵を目の前にしても震えたことなど一度もないが、不安ばかりがサヴァルの胸を支配した。
初めての愛の告白に、求婚。
果たしてコレットは受け入れてくれるのか。
今更何を言っていると、罵倒されはしないか。
追い返されはしないか。
恋という感情は、こんなにも心を弱くするのか。
鍛え上げた肉体を持つ大人の男が……まったくもってヘタレだと思う。