狼陛下と仮初めの王妃
狼陛下の婚約者
アルザスの山々の稜線がにわかに光り、ガルナシア城の藍色の尖った屋根に日が届く。
夜の闇を破ってだんだん広がっていく光は、最上階にある部屋の窓を照らし始める。
五階建ての城は正面玄関を中心に左右対称の造りになっており、四角い建物の両端に丸い塔がくっついているような形だ。
最上階の左端の広い部屋はサヴァル陛下のもので、窓には藍色のカーテンがぴっちり引かれている。
そこから数えて九個目、クリーム色のカーテンがかかっている三つの窓は、コレットにあてがわれた部屋のもの。
(仮)婚約者の仮住まいはとても広い部屋で、壁際には美しい彫刻の施された白色の調度品が揃えられている。
ソファセットの下にはふかふかのクリーム色の絨毯が敷かれ、部屋のほぼ真ん中辺りには、柔らかな風合いのレースの幕に囲まれた、天蓋つきのベッドがある。
そこでコレットは、毛足の長い毛布にくるまってすやすや眠っていた。
豊かな髪は白いクッションの上に広がり、いつも輝いている青い瞳は、長いまつ毛に縁どられたまぶたの中にある。
カーテンを透かした柔らかな光がベッドを優しく照らすと、小さなうめき声がして、毛布がもぞもぞと動いた。
コレットは微睡みの中で朝の気配を感じ、まだ眠気の残る目をこすりながらぼそぼそとつぶやいた。
「ん……朝……なの?」