狼陛下と仮初めの王妃
いつも耳にする朝鳥の鳴き声が聞こえてこない。
静かで、風の音も獣の鳴き声もしない。
珍しいこともあるものだと思いながら起きようとするが、見慣れない天井を目にして目が点になり、カチンと体が固まってしまった。
今自分がどこにいるのか分からないでいる。
クッションのいいベッドに、ノリのきいた真っ白なシーツ。
毛足の長い毛布は柔らかく、いつまでもくるまっていたくなる心地よさがある。
そして、周りを囲むレースの幕から透けて見える光景を目にし、ああそういえばお城にいるんだったと、ようやく思い出した。
頭を抱えてため息を吐けば、昨日の目まぐるしい一日がありありと蘇ってくる。
たった一日にして、牧場の娘から狼陛下の婚約者に変わってしまったのだった。
「でも、本当に夢じゃないのかしら……」
罪に対する罰であるのに、あまりの待遇の良さに辟易している。
身につけているものはシルクのネグリジェで、いつもコレットが着ているワンピースよりも、はるかに上等なものだ。
薄桃色で胸元と裾にリボンとレース飾りがあり、このまま街を歩いても平気なほどのかわいらしさ。
昨夜メガネの騎士にこの部屋まで案内されて、待ち受けていた侍女に問答無用で着替えさせられたのだった。
待ち受けていた侍女とは、コレットをお風呂に入れたリンダである。
「えっと……これからどうしようかな……」
昨日は心身ともに疲れ切ったおかげか、ベッドに入ってすぐに深い眠りに就くことができた。
おかげですっきり目覚めたのはいいが、一日をどう過ごしていいのか分からず、困ってしまう。