狼陛下と仮初めの王妃
(仮)婚約者の部屋には、楕円の鏡の付いたドレッサーがある。
鏡の周りの白い枠には薔薇の花の彫刻が施されており、金糸で編まれた紐が縁を飾っている、とても美しい造りだ。
クローゼットの前でぎゅうぎゅうとコルセットの紐を絞められて、ミントブルーのドレスを着せられたコレットは、そのドレッサーの前に誘われた。
「わあ、かわいい……」
見た瞬間に感嘆の声が出る。
昨日はとんでもない出来事の連続で、周りをじっくり見る余裕などは一ミリもなかった。
姿を見るだけの鏡がこんなにかわいいなんて!と、とても感激している。
牧場の自分の部屋にはドレッサーなどなく、小さな手鏡のみだった。
両親と一緒に都に住んでいたときは、お針子だった母親の仕事のおかげで大きな姿見がひとつだけあったが、櫛などの道具類は、使い込まれてあちこちに傷のある小さな木箱に仕舞われていた。
部屋にある調度類をよく見れば、みんな同じ飾りが施されている。
ベッドまでもが、天蓋部分と柱に飾りがついていた。
「全部、お揃いなんですね」
感心しつつ、元からこのお部屋にあったものかと訊けば、これらの道具類は全部昨日のうちに運び込まれたものだとリンダは言う。
「お気に召されたようで、よかったですわ~。きっと陛下もご安心なされます。でも、急なことでしたので、まだ揃えられていないお道具がたくさんございますの。ドレスもそうですし……ご不便をおかけいたしますわ」